相続が争族にならないために!「不動産」の相続で起きるトラブル事例とその解決策

厚生労働省が発表した人口動態統計(2020年6月5日)によりますと、2019年の出生数は86万5234人で過去最少だったのに比べて死亡者数は138万1098人で戦後最多を記録しました。この統計を見ても死者の数は増え続けることは明らかです。

死亡数と死亡率の推移と将来推計
図表「死亡数と死亡率の推移と将来推計」 出典:平成28年版厚生労働白書
このグラフを参考にしますと、年間死亡数は2039年で167万人と最多となり、その後は少し下がり傾向になるものの140万人以上の水準をキープします。この表を参考にするならば日本は今後40年間、毎年140万件程度の相続が起こると言っても過言ではありません。相続において、遺産の大半が土地、建物などの不動産です。遺産の分割割合で揉めないようにしたり、相続税の課税時に税額を低くに抑えたり、資産にならない不動産をどう処分したらいいのか?相続時には不動産問題が避けては通れません。家族と揉めることなくスムーズに相続してゆくために不動産のトラブル事例とその対処法を考えていきましょう。

 

土地の相続時に起こる5つのトラブル

相続時の不動産トラブル

  1. 平等に相続財産を分けようと考える場合のトラブル
  2. 不動産を当然にもらえると勘違いする場合のトラブル
  3. 不動産が空き家になるリスクに気付かないトラブル
  4. 不動産の名義変更がされていなかった場合のトラブル

平等に相続財産を分けようと考える場合のトラブル

総務省統計局「世帯の居住状況とその推移」によりますと普通世帯4980万世帯のうち,持ち家に居住する主世帯は3032万世帯で,普通世帯全体に占める割合(持ち家世帯率)は60.9%となっております。平成15年(2867万世帯,60.9%)と比べると,165万世帯増加したものの,普通世帯が増加しているため持ち家世帯率は同率となっています。持ち家世帯率の推移をみると,昭和43年以降では58年の62.0%が最も高く,60%前後で推移しています。

図4-1 持ち家世帯率の推移-全国(昭和43年~平成20年)

「世帯の居住状況とその推移」総務省統計局

上記の表からも分かるように半数以上が持ち家であることから、相続の際に不動産が大きく関与してくることがお分かり頂けると思います。また、最近では一般的ですが法定相続分(相続財産を分割する場合の基準)を利用して相続財産を平等に分けることが主流になりつつあります。

しかしながら、不動産は現金などとは違い、分割しにくい難点があります。すぐに現金化できればいいのですが不動産を処分するためには時間と労力が必要になってきます。相続財産のうち土地の占める割合が多いことから「平等に分ける」とことを考えた場合、不動産を相続人で共有で所有するケースが多くなります。しかし、この共有という考え方がトラブルの原因なのです。

共有で所有するという相続のやり方だけを見ると平等のように感じるかも知らませんが、問題が起こるのは相続をした当事者間ではなく、そのお子さんやお孫さんの世代にトラブルが起きることになるのです。確かに兄弟の仲が良く、それぞれが話し合った結果、良い結論が出せたのでしょうが、共有持分にしてしまうと次の世代のお子さんたちやお孫さんたちの世代では仲が良くない人同士が集まって話し合いをして、結論を導き出さなければならない可能性があります。世代が引き継がれるにつれ、関係性はどんどん希釈化してゆくことになり、遺産分割協議書を作成して署名・捺印までするとなれると皆が納得するのは売却してお金を分けることはかなり至難の業という結果になりかねません。子どもたちの世代に迷惑を掛けないためにも、自宅を共有持分にすることは避けましょう。

仮に三人の兄弟が相続をするとして、三人のうち誰が実家の相続をするのかを話し合い、相続財産が平等に分けられないという場合は代替案として現金を出すことで分けることを考えたり、どうしたら次世代に繰り越さず分けられるかを話し合って決めて行くことが重要になります。また、必ずしも土地と家屋の価値を財産評価額で考える必要や平等性を追求する必要もありません、相続人同士が納得のいく方向性で決めてゆくことが重要です。
どうしても現金を出せない場合は、少し売却金額が低くなったり、時間が掛かっても実家を売却することで平等にお金を3分割することを選択することも一案です。少しでも自分に多くの財産が欲しいと考えるお気持ちも分かりますがかえってトラブルを起こすもとになりますので注意が必要です。

相続をされる際は、売却して得たお金の税金の取り扱いや相続税の節税も考慮した方が良いので、相続税に詳しい税理士にご相談することも重要です。

不動産を当然にもらえると勘違いする場合のトラブル

親の介護と相続は無関係です。

相続のトラブルの中でも比較的よくあるトラブルがこのケースです。ご両親と同居している息子さんがご両親の介護をされている場合、ご自身たちがご両親の介護で貢献されているので、当然に実家を自分たちが相続できるものと思い込んでいくことはさほど珍しくありません。また、ご両親と二世帯住宅を建ててご一緒に住んでいるケースもいずれはご両親の住居部分も自分たちが相続できると思い込んでいることも良くある話です。お気持ちはわかるのですがこれはあくまでも気持ちの問題であって、法律で定められたルールはありません、ご本人の勘違いからくる自己主張なのです。

確かに介護というのは大変な重労働ですし、親の介護などの対価は相続の際に大きく表われます。これを「寄与分」言いますが残念ながら「ご両親にどれだけ貢献した」というよりも「財産の維持や増加に貢献した」ことが対象となります。よくある話で親の介護のためにお子さんが仕事をやめて専念したケースでは、親の介護をしたということではなく、介護することで高額な入院費の支払い免れたなど「財産の維持に寄与した」という明確な理由が必要になります。また、その介護をしないことで本来、なくなっていたであろう財産の毀損に貢献したことを兄弟に認めてもらう必要があり、寄与分の額は、相続人が話し合いをして決めることになります。

寄与分の主張は、相続人同士で揉めるケースがありますが、その場合は家庭裁判所に申し立てを行い、決めてもらうことになります。個人的には残念に思うのですが現実は、「寄与分」が認められるケースは少ないです。寄与分で揉めて申し立てを行った場合、まずは調停の申し立てをしますが、現実的には思った結果にたどり着けず、最終的に審判に移行して裁判官の判決を待つことになります。こうなると長い時間もかかり、何度も裁判所に足を運ばならない上に弁護士費用も必要になります。ここまでしても、最後は法定相続分で分割する判断がされることも珍しくなく、お金と時間を費やしただけで、最初と何も変わらないことになります。

何事もそうですがやはり、事前に話し合っておくことが重要です。ご両親の介護を話し合う、二世帯住宅を建てるなど、言い方は悪いですが義務を背負う代わりに、権利として土地や家屋を相続したいと思うのであれば機会があればと考えるのではなく、その時点で当事者全員で話をして、できれば書面に残しておくことをお勧めします。相続財産の分割協議をする段階になってから、突然、自分の権利を主張をしても周りからの賛同が得られないケースがほとんどです。日頃からトラブルにならないように話し合う機会がある時点で相続の話をしておくことを心掛けましょう。

不動産が空き家になるリスクに気付かないトラブル

空き家のリスクも考えましょう!

ご両親が亡くなったり誰も住まないことになれば大切な実家は空き家になります。ご自身の生家として思い出深い実家の処分に中々、踏み切れない、いつまでも思い出として残したいと主張される方も少なくないと思いますしかし、相続人全員の意向が一致しないと相続の手続きや売却の手続きができないため困ります。

実家にはご自身たちの小さい頃の大切な思い出が詰まっているため、家屋を取り壊すことを躊躇して処分できないケースがよくあります。どうしても売却ができない場合、賃貸として人に借りてもらう方法もありますが、これにも反対される場合も珍しくありません。しかし、実家を空き家しておいておくことには非常に沢山のリスクがあり、後々の後悔にならないために事前にきっちりとした考えが必要です。

まず第一段階目の空き家のリスクは1ヶ月後くらいから始まります。1ヶ月間、実家に誰も住まずに放置しているとすぐに老朽化が始まります。特にキッチンや風呂、洗面台などの排水管から下水の臭気や害獣(ねずみなど)の侵入してきます。また、固定資産税の支払いも必要になりますので金銭的なリスクも発生します。

大切なのは空き家になる前から実際に空き家になった時のことを話し合っておくことが大切です。空き家をどのように管理してゆくのか?ご家族で維持管理をする・不動産会社に管理を任せる・賃貸物件として貸し出す・売却してしまうなど、いずれかを決めておくと空き家のリスクから解放されます。

不動産の名義変更がされていなかった場合のトラブル

ご両親が亡くなり実家の土地や家屋の相続が必要になった場合、実家の登記簿謄本など不動産関係の書類を取り寄せてみると、所有者の名義人が先代(御祖父など)のままだったというケースがあります。所有者が亡くなったからと言って相続登記(不動産の名義変更)は、必ずしなくてはいけないという事もありませんし、期限もありませんのでそのまま放置されている場合がよくあります。しかし、先代(御祖父など)名義の不動産を自身に相続を行う場合には相続登記が必要です。

例として

祖父→父親→母親→子供(ご自身)の場合

上記のようにご両親が両方ともなくなっておられる場合、登記名義人の先代(祖父)みると、祖父→父親、父親→母親、母親→子供(ご自身)へと3回名義変更が必要になります。祖父が亡くなった時に遺産分割協議書が作成されていればいいのですが相続登記が行われていないのですから、その可能性はほぼありません、不動産に関する遺産分割協議書を再度作成し、登記関係書類の準備が必要とな、そのあと、父親と母親の書類と揃えて名義変更を行います。

祖父の子供が健在であればいいのですがケースによっては祖父の子供が亡くなられている場合、その孫に、不動産に関わる遺産分割協議書の署名・押印をしてもらわくてはなりません。よくある話ですが、突然、面識もない人が訪ねてきて「おじいちゃんの遺産分割協議書に押印してください」などとお願いされてもスムーズに話が進むはずがありません。また、相続人が数人であればさほど手間はありませんが10名以上となるとかなりの時間を要するケースもあります。

この様な面倒なことにならないようにご両親が生きておられる段階から、土地や家屋の登記をしっかりと把握しておくことが大切です。最寄りの法務局に行けばまずは誰でも簡単に登記情報を入手できます。万が一、先代のままの名義になっている場合はすぐに対応とることが必要です。ご両親がご健在な間であれば簡単なことでも亡くなられた後では苦労も大きくなりますので早めの対応が必要です。

まとめ

実家など土地の相続をするときに、よくあるトラブルを4つ上げてみました。
事前に遺言書の作成などが行われている場合などは、これらのトラブルはありません。

普段からご両親が亡くなった場合の話はしにくいものですが、実際にご家族が亡くなられると、葬儀から相続の手続き、相続税の納税など、やることが本当に山のようにあり、そして期日が迫られるものもありあっという間に1年が過ぎていきます。トラブルを回避するには事前準備こそが一番の対応策ですし、家族が円満に相続を終える秘訣です。
ご両親も、自分の財産が理由で子供達仲たがいすることを決して望んでいないはずです。お盆やお正月に集まった際に少しだけでも話をすることをお勧めします。